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・SmO2の事を理解したい学生・研究者・医者
・SmO2をトレーニングに取り入れようか考えている人
①SmO2の原理
具体的に何を測っているか。毛細動脈のヘモグロビンの酸素飽和度?毛細静脈のヘモグロビンの酸素飽和度?ミオグロビンの酸素飽和度?
②SmO2はトレーニングに有効か
目次
①SmO2とは?~SmO2の原理~
SmO2はMuscle Oxygen
Saturationの略で日本語では筋酸素飽和度です。 MOXYというSmO2デバイスの仕組みを元にSmO2の原理について理解していきましょう。 MOXYについてのサイト→https://www.moxymonitor.com/ MOXYでは630-850nmの近赤外線を用いて、酸素飽和度の計測を行っています。
光線を出し、跳ね返ってきた光線を元に酸素飽和度を算出しています。 それでは皮膚・脂肪の中に含まれる血管の中のヘモグロビンの情報も拾ってしまうのではないか、、、、と思いましたが、 MOXYは組織への光の伝達についての数式モデルを用いる事で多くの組織のなかから筋肉に関する情報のみを選別する事ができるそうです。
よって、SmO2は筋肉中の情報を近赤外線で観察しています。
さて、筋肉といっても、そこには毛細動脈・毛細静脈内のヘモグロビン、筋細胞の中のミオグロビンがあります。(下図参照、J Appl Physiol 116: 998–1005, 2014.)
この中のどこを測っているのでしょうか。
これが私にとって非常に重要な問題でした。
なぜなら、運動耐容能に関係する因子としての重要度は 毛細静脈内のヘモグロビンの酸素飽和度 > 筋細胞の中のミオグロビンの酸素飽和度 >> 毛細動脈のヘモグロビンの酸素飽和度 だと思うからです。
Fickの式からA-V O2(筋肉での酸素消費効率)が運動耐容能に非常に重要な事が分かりますが、
A-V O2は(動脈中のヘモグロビン酸素飽和度―静脈中のヘモグロビン酸素飽和度)で求めることができます。(運動耐容能の記事も参考にしてください)
動脈中のヘモグロビン酸素飽和度は肺静脈でも大動脈でも橈骨動脈でも毛細動脈でも、いずれも筋肉で酸素が消費される前なので、基本的には変わらないはずです。
よって、毛細動脈中のヘモグロビン酸素飽和度=SpO2 (指先の動脈中のヘモグロビン酸素飽和度)です。
わざわざ測定する意味はないです。
よって、(動脈中ヘモグロビン酸素飽和度―静脈中のヘモグロビン酸素飽和度)の算出には毛細静脈内のヘモグロビンの酸素飽和度の算出が非常に重要になるわけです。
前述のMOXYのサイトを見てみると、 “SmO2で毛細血管のヘモグロビン酸素飽和度を測定する“ と書いてありますが、それが毛細動脈なのか毛細静脈なのかの記載はありません。
これら2つの血管を近赤外線で区別するのは難しいと考えられます。
また、筋肉細胞内のミオグロビン酸素飽和度の情報の区別するのも同様に難しいと考えられます。
よって、私が出した結論は SmO2は筋肉内に存在する毛細動脈のヘモグロビン酸素飽和度、毛細静脈のヘモグロビン酸素飽和度、筋細胞内ミオグロビン酸素飽和度 を総合的に評価する指標である です。
Muscle Oxygen Trainingについて海外の医師が書いた記事の中でも、The measurement of SmO2 takes place in the capillaries of the muscle. higher levels of exertion in the muscle lead to lower SmO2.と記載してあります。
http://www.muscleoxygentraining.com/2018/08/
そうであれば、毛細動脈のヘモグロビン酸素飽和度は基本的には一定なわけですから,
SmO2の低下は毛細静脈のヘモグロビン酸素飽和度、筋細胞内ミオグロビン酸素飽和度の低下を意味し、
筋肉内で酸素が多く使われていることを意味するので、
非常に有用な指標だと思います。
さらに詳しく考えてみましょう。
人体において、AV O2(筋肉での酸素消費量)はどのように調節されるのでしょうか?
運動中は筋細胞がパワーアップして酸素取り込み能が上がるんですか?(ミトコンドリアや酵素の機能があがる?)、筋細胞へ運ばれる酸素の量が増えるんですか? 答えは後者です。
筋肉の代謝は最大酸素消費量の規定因子ではないというのが通説です(Human Circulation Regulation During Physiological Stress, Rowell) なので、筋細胞は常に一定の仕事をしていて、そこに分配する酸素の量で,産生されるATPと仕事量が決まると言えます。
では、筋細胞へたくさんの酸素を運ぶにはどうしているか?
それを担っているのが、毛細血管を拡大・開放です。
毛細血管を開放し
①多くの血液を筋肉内に導く、
②筋細胞と毛細血管の距離を短くして酸素を移動しやすくする、
③筋肉内を走行する動脈の速さを遅くする、 ことより筋肉への多くの酸素の供給が可能になり、筋肉の酸素消費効率を高くします。
よって、SmO2は筋肉内の毛細血管の密度を反映していると考えれます。
毛細血管の密度は老化にとって重要な要因です。 下記の研究では、老化により、毛細血管の密度が低下すると報告しています (J Appl Physiol 116: 998–1005, 2014)
毛細血管密度はいわば”筋肉年齢”なるものかもしれません。
よって、高齢化が進む中、SmO2は利用価値のある検査ではないでしょうか。
SmO2は筋肉内の毛細血管の密度に関連した指標であると考えれ、それはA-V
O2(筋肉での酸素消費効率)と関係している。そのためSmO2は運動耐容能にとって重要な指標である
②トレーニングでSmO2は有効か?
ではSmO2で毛細血管密度の変化・筋肉での酸素消費量の変化が分かったところで、それがトレーニングに応用できるでしょうか。
1)筋肉での酸素消費効率は上がるか Fickの式より最大酸素消費量を上げるために筋肉での酸素消費量を上げればいいと考えれます。それは可能でしょうか?
それは難しいと思います。
Rowell によれば、スポーツマンであっても一般人であっても筋肉での酸素消費量は変わりません。
さらに、弁膜症を持っている心臓病の患者でもそれは変わりません。
よって、筋肉での酸素消費量は鍛えようがないと思います。 (Human Circulation Regulation During Physiological Stress, Rowell)
2)適切な負荷の指標になるか
下記は手の把握をさせた時の手の筋肉のSmO2の変化の使用です。(Dyn Med (2006); 5: 5)
一番下のグラフをご覧ください。
点線の間が手をにじっている時間です。
SmO2は早急に下がり、低値を維持していることが分かります。
つまり、毛細血管は早急に拡大し、そのまま維持されています。
毛細血管の拡張に乳酸産生や血中のpH,PaCO2など関わっているのかもしれませんが、
このような急進な変化の中で目標の値を定めるのは不可能だと思われますので、
適度な負荷の指標という使用法も無理があるのではないでしょうか。
適度な運動の指標にするのであれば、心拍質量と比例的に脈拍する脈拍の方が有効ではないでしょうか。
まとめ
SmO2は運動耐容能を伸ばす目標として使いにくそう
適度の運動を判断する事にも用いにくそう。
何かうまい使い方があれば教えてください。
勉強して理解した内容をまとめてみました。間違っている点やを含めたご指摘があればぜひ教えてください。
骨間筋の循環の調節についてもっと勉強したい方は以下の本は大変まとまっているので参考になると思います。
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運動科学部・生理学科に留学中の循環器内科です。特殊環境医学・運動生理学の研究に従事しています。 研究でSmO2(筋酸素飽和度)を用いることになり、本気で勉強してみました。